【マイム俳優いいむろなおき氏ワークショップ】
12月某日、アマヤドリの稽古場に素敵な雰囲気のお兄さまが現れた。
我々が初めてお目にかかるこの方は、マイム俳優の、いいむろなおきさん。
「いいむろなおきマイムカンパニー」というとっても分かりやすい名を冠した団体の代表をされている。
マイムカンパニーというくらいなので、いいむろさんは勿論マイムができる。できるというかすごい。とにかくすごい。 名だたる大物と舞台を共にしたり、有名な作品の振付をしたり、とにかくその日稽古場にいた誰よりもビッグネームなのは明らかである。
そんな大物いいむろさんが、なぜアマヤドリの稽古場にいらっしゃるのか。 そう、この日はいいむろさんにマイムのワークショップをして貰おうということになっていたのだった! ビッグネームを引き寄せたきっかけは劇団主宰・広田なのだが、経緯はひとまず置いておく。とにかくひょんな出会いでアマヤドリ出演者はいいむろさんにマイムを教えて頂けることとなった!ありがとう広田!
しかし いいむろさん、なんかオーラがすごい。
稽古場に入る前、部屋の前で立っているいいむろさんへ劇団員が椅子をすすめたのだが 「大丈夫です、アップしてるので」と丁寧にお断りされていた。
なるほど・・・と 良く見ると、その足もとの動きが、ヤベエ。 なんかこの方の周りだけ、重力が、無い。 今日1日ついていけるか突如不安になる一川。
私の不安をよそに、ワークショップ開始時刻となった。
ワークショップが始まると、まず「マイムとはなんぞや?」という簡単な説明がなされる。
「マイムと言われると何を思い浮かべますか?」
・・・そりゃあ、あれだ。壁をペタペタやったり、カバンが重くて持てなかったりするやつだ。
恐らくその場の全員がそう思っただろう。
しかし、いいむろさん曰く「それはパントマイムです」とのこと。
どうやらパントマイムはマイムの中の1ジャンルに過ぎず、他にも沢山のジャンルがあるらしい。
ダンスの中に、バレエがあったり、ジャズがあったり、ストリートがあったりするが、それと同じように考えて良い。
今回我々が学ぶのは「mime corporel dramatic」、カタカナで書くと「ミーム・コーポリアル・ドラマティック」。
パントマイムが見せるのは、存在しない「壁」や「カバン」。それに比べ、mime corporel dramaticが見せるのは、壁を押す「身体」や鞄を持つ「身体」。
ためしにふたつの違いを実演して貰ったが、なるほど全然ちがう。
コーポリアルの方は、実に身体がよく動く。コップひとつ手に取るのでも重心がグワングワン移動するのが分かる。
しかし、原理は全く分からない!なにこれ?!え?やるの?これ、今日やるの? 再び不安に襲われる私。
さてここで、そもそもなぜダンサーでもマイマーでもない私たちがマイムを学ぶことになったのか。少しだけ説明しておこうと思う。
実はアマヤドリは、次回公演からマイムですべてを表現する演技スタイルをとることになったのだ。
・・・というのは嘘で。
大きなキイワードは「重心」だ。
アマヤドリの主宰であり、演出の広田はよく「重心」について言及する。セリフひとつ喋るのでも相手に重心が乗っていないとその言葉は届かない。また、重心のコントロールは登場人物のステータス、環境を表すためにも大事な要素になりうる。
しかし舞台上でやりとりをする際に「よーし、重心乗せるぞー」と意気込んだとしても、できるかどうかは大分あやしい。
そもそも「重心を乗せられるカラダ」がどんなものか分かっていないと意味がない。
mime corporel dramaticは「からだは語るべきものである」という前提で、普段無意識に動かしているものを意識的にコントロールする。重力や軌道には物理的な摂理があるため、そこには嘘をつかないように「見せる身体」をつくる。うーん。うまく説明できないが、なんかとにかく、コーポリアルマイムは動きのひとつひとつ、重心の乗せかたひとつひとつがとても合理的かつ美しいのだ。(詳しくはいいむろさんのWSへGO!)
これってとっても演劇に役に立つんじゃない?ということで、いいむろ大先生に教えを乞うこととなったのである。
さて実際にやってみると、原理は分かるが身体がついていかない。圧倒的に筋力が足りないのが分かる。 なぜだろう?いいむろさんは楽々やっているように見えるのに・・・。
それもそのはず。マイムは一番頑張っている(支えている)ところを頑張っていないように見せないといけないのだ。
確かに頑張ってるのが見えたら興ざめである。
mime corporel dramaticには沢山の型がある。
基本的な型を組み合わせて、「子供を抱いているように見える」かもしれない身体や、「銃を持って人を殺しに行く」かもしれない身体・・・などなど、色々な状態の身体をデザインする。似たような身体のかたちでも、少し角度や重心が変わっただけで見え方は全く変わってくる。演者の内面は全く変わっていないのも関わらず、だ。
これこそmime corporel dramaticの真骨頂だと私は思う。感情を頼りに演技をするのはナンセンスだが、身体は感情よりもだいぶ頼りがいがある。
ただ、いいむろさんは繰り返し「これ(mime corporel dramaticの型)だけでは舞台作品は作れない」と言う。 あくまで表現方法の一部として扱う、とのこと。
うーん。こんなに大変な技術なのにこれだけじゃダメだなんて奥深すぎる・・・。
しかして様々な型を教えて頂き、重心の乗せかたや乗せる場所を学ぶことができた。
足の裏に体重を乗せるにしても、親指側なのか、小指側なのか。つま先を何センチ浮かすのか膝を何度曲げるのか・・・などによって乗り方が全く変わってくる。
こんなちょっとの違いでこんな変わっちゃうの?!という衝撃を受けつつ、最後には小さな作品を発表することができた。
終わるころには筋肉痛がはじまっていたので、普段からもっと鍛えねばと痛感したことも記しておこう。
(カンパニーメンバーは毎回1時間筋トレしてから稽古するそうな。)
短いが、非常に非常に有意義な時間だった。次回は1週間くらいかけて学びたい。
はてさて、今回学んだ技術が次の作品にどう生かされるのか… どうぞ劇場でご確認くださいまし。
一川幸恵
マイム俳優いいむろなおきオフィシャルサイト