【撮影秘話】
<vol.1 モデル>
10 月28 日、広田さんからこんなメッセージが届いた。
★★【ヤバめ速報】★★
1月公演、山代さんがあまりの忙しさのためチラシ作れず、とのこと……。やばス。(原文まま)
山代さんとは、いつもアマヤドリのチラシを書いてくれる天才画家である。数年前ひょっこり劇団員になってくれることになり、みんなで驚き、喜んで、仲良くさせてもらっていたものの、彼はプロ中のプロ。
彼の才能を世が放っておくはずもなく、今回のアマヤドリ公演は山代画家不在が決定した。
そこで私は考えた。
写真だ。写真のチラシにしよう。
アマヤドリのチラシイラストはもはや山代さん以外考えられない。いろんな素晴らしいチラシを見ても、どうもアマヤドリじゃない。
アマヤドリの前身であるひょっとこ乱舞時代のチラシでは、いくつか写真を用いたものがある。この延長で考えればいいんじゃないか。
さて、モデルは誰か。
最初に思いついたのは、もちろん俳優。広田さんに選んで決めてもらおうと思っていた。ただ、なんとなく、誰で想像してもしっくりこない部分があった。誰でも成立するけど、その分、「この人」という決定打がなく、また、俳優をモデルにしたチラシのありきたりさを感じていた。
そんな時、同業者の誰かから昔言われた言葉が頭をよぎる。
——————アマヤドリの作品って役者が見えてこないよね。
——————アマヤドリの作品っていつも“広田さん”って感じだよね。
——————まやはアマヤドリ辞めた方が良いんじゃない?
いろんな人からいろんなことを言われるので誰の発言だったか定かじゃないものの、好き勝手放たれた言葉たちに対する、なんとも言えない感情が急に湧き上がってきた。
私はこの時同時に、広田さんに対しても微妙な感情を抱いていた。
【ヤバめ速報】が届く少し前、電話で話していた際に広田さんから、「アマヤドリの母体は僕一人だ。」という話を聞かされた。「そしてそれで良い。」とも。発言に至る経緯はあまりに長く濃いので割愛するけど。
アマヤドリの母体は広田一人……。
劇団員のうち誰かは、「自分は母体じゃない」と言われることに嫌な思いを抱くかもしれない。だけど私は素直に、そうだな、と思った。母体は広田一人だ、と。
「それで良い。」とも言った広田さんの声には、若干の寂しさが滲んでいたような気もした。自分と同じ深度で劇団のことを考え、母体になってくれる人の存在を諦めきれない寂しさ。
そんなことを邪推しつつも、私の考えはむしろ固まった。
母体は一人だ。
アマヤドリ=広田さん。他の誰がいなくなってもアマヤドリは存続する。広田さんの書く作品を面白いと思えなければ、俳優はすぐに劇団を辞めて良いし。逆も然りで、広田さんが役者として良いと思えなければ、いつでもクビにできる。はず。私たちの結びつきは、そんな風に思える瞬間の連続ではないか。
悲しくも寂しくも申し訳なくもないけど、なんかもやもやするそんな思いを全部乗せて、広田さんをモデルにしてはどうかと思いついたのは11 月2 日。
<vol.2 説得>
11 月5 日。小竹向原のファミレスで広田さんと打ち合わせ。
モデルを広田に…を思いつくまでの経緯を全て、包み隠さず話す。
モデルは広田説に驚く広田。「俺でいいのか?」あまりの斬新さに判断不能、その時には熱しやすい私のモチベーションは完全に出来上がっており、広田モデル説を熱弁。勢いに押されつつ、斬新であることには同意してくれ、案、通る。劇団員たちも最初は「?」という感じだったけれども熱弁に巻き込まれる。連動して劇団員の写真による仮チラシを作りたい、と話すと一部の人、テンション上がる。ちなみに出来上がった仮チラシはこんな感じ。仮チラシ製作秘話はまた追って。
なんとか同意を勝ち得たのち、誰に撮影をお願いしようか、という話になった。すると広田さんの口から「外の人より、まやに撮ってもらうほうがいい。」と言われる。私はもちろん写真のプロじゃない。だけど、被写体と撮る人の関係性が写真にでるというのも常々思っているので、劇団の外のプロの人にお願いするより私に頼んだほうが気が楽だという広田さんの気持ちもわからなくなかった。そこで、今回はなんとか自分たちで頑張ってみようという話になった。
そんなやりとりを経て、チラシ写真のテーマは“アマヤドリの現在地”にしたいと思った。飾らない等身大の、ひとりぼっちの広田淳一(=アマヤドリ)の写真。
<vol.3 撮影当日>
11 月15 日。
広田さんに非常に濃く関係している場所で撮影開始。とにかく撮る。話しながらひたすら撮る。私の中にも明確なビジョンはなく、行き当たりばったりでいろんなシチュエーションで撮る。カメラにもとても詳しい味方が最近アマヤドリに加わったので、その人の指示を仰ぎながら、若干カメラ講習を受けながら、3 時間弱、400 枚近く撮る。
最終的には、手伝ってくれたアシスタントは豚の生姜焼きを食べ始め、モデルの広田も別作業を始める。そんな風景も全部撮った。そうこうしてなんとか出来上がったのが、こちら。
写真撮りすぎてだんだん広田さんの顔が大好きになってゆくこかど。(カメラマンさんあるあるなのかプロに聞きたい。)
数日後、400 枚から14 枚に絞り、劇団員にも意見を聞いて、完成。今となっては出来栄えはもう自分ではよくわかりませんが、ひょっとこ乱舞時代からお世話になっているスタッフの方や過去公演の出演者から「斬新だ」という声が届き、もうそれだけで非常に嬉しく、勝ち誇ったような気持ちになった。どうぞお手にとった際はじっくり眺めてくださいね。